依頼者・相談者の幸せを願って
裁判官在籍時に担当した数多の交通事件の中には、重い後遺障害が身体に残り、生涯車椅子生活を余儀なくされた20代の男性の事案、自転車にようやく乗れるようになった幼児が亡くなって心の支え・生きる希望を失ったというお母さんの悲痛な事案など、胸が締め付けられるような深刻なものも少なくありませんでした。
そのお母さんの事案では、本人尋問の場で、きちんとお子さんの様子を見守ってあげられなかったと悔やまれる思い、周囲の親族から受ける以上にご自身を責めて胸の奥に押し込んだ辛い感情を、時間をかけて語っていただくこと以上のことはできませんでした。
20代の男性の事案では、ある日の審理手続が終了した後、代理人弁護士に同行していた彼が、事故後、新たに巡り合った活躍の場となる職業とサークル活動、リクレーションなどでやりがい・生き甲斐を見つけたことを伝えてくれ、少しの時間でしたが、それを話題に会話のやり取りをする場面がありました。
その事件は、その後、裁判所が提示した和解案に基づき和解が成立したのですが、和解成立後、彼は、私に対して「健康な時には気付かなかった様々なことが、車椅子生活になったことによって見えるようになったし、できなかったことができるようになり、周囲の人たちの親切にも素直な感謝の気持ちを持てるようになりました。懸案だったこの問題を早く解決し、前向きな生活ができるようになったことにとても感謝しています。」と話してくれたのです。
彼が不幸にも遭遇してしまった事件を自らの意思で決着をつけ、新たな人生を歩み始めた姿は眩しく、とても嬉しい思いで見送った一日でした。
振り返ると、私と彼がやり取りする前、代理人弁護士は、彼と私の間を橋渡しする役割をしてくれたように思うのです。
私に対して「ぜひ本人の話を聴いてあげてくれませんか。短時間で構いません。」と述べ、彼の様子を手短に説明してくれ、私も会ってみたいと思ったのです。
そのような布石があったから、上記のようなやり取りができたのだと思います。
弁護士は、依頼を受けた方々の権利の実現・擁護のために真摯に仕事に取り組みますが、その過程で、依頼者に最も近い位置で寄り添い、依頼案件が終了した後の将来にも目を向け、依頼者が前向きな気持ちになってもらうよう努めることができる存在でもあります。
私たちは、交通事件の被害者側の立場で依頼者に寄り添う立ち位置で仕事をしています。
もとより、依頼者が適正で合理的な損害賠償を受けられるよう尽力していますが、それとともに、将来に向けて新たな第一歩を踏み出す依頼者の方々を励まし、温かく見守っていく、そのような存在でありたいと思って、日々の業務に邁進しています。



